
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 4:地獄への口約束
その日、塚田は生まれて初めて、無断で定時前に退社した。行く当てもなく八戸市内を彷徨い、日が落ちると一軒の居酒屋にたどり着いた。
塚田はツマミもそこそこに酒を注文した。本来酒に弱い体質のところを、2杯、3杯と浴びるように飲み続けた。あまりに破滅的な飲み方をしていたからか、しばらくすると、同じ居酒屋にいた一人の身なりと恰幅のいい壮年の男が、その様子を見かねてか塚田に話しかけてきた。
塚田は男の差し出したお冷を飲み干すと、感極まってか男の前で泣き始めた。
男は最初黙って塚田の話を聞いていたが、塚田が自分の関わるプロジェクトの話を持ち出すと、えらく塚田の話に食いついた。
ここ最近人との会話に飢えていた塚田は、つい勢いづいて機密とされている情報の多くを男に話した。
最後に、男は自分がパーシアスエンタープライズと対立関係にある内丸派の人間であることを塚田に明かした。ここにきて、塚田は自分の失敗に気づいた。
男は、塚田を気遣って身柄の保護を申し出たが、塚田は気が動転し、店を飛び出した。塚田にその後の記憶はない。
翌日、気がついた時には、塚田は八戸市の中心街の、人気のない裏路地に寝転がっていた。時刻は15時をまわっていた。
重い二日酔いの中、どうにか自宅までたどり着き、その日は記憶の整理でいっぱいいっぱいであった。
そして翌朝、塚田は迷った末に、生まれて初めての無断欠勤を終えて、職場に出社しようとしたその矢先。
わけもわからぬままに黒づくめの覆面の一団に拉致され、尋問部屋へと連れていかれ拘束された。
「塚田さん。アンタには、内丸派への内通の疑いがかかってる。我々はアンタを始末することも許されている。」
拘束された塚田を無表情に見下ろし、冷たくそう言い放つのは、他の武装した覆面男たちから『主任』と呼ばれている軽装の男である。
「だけどな、東間会長は功績のあるアンタを気に入ってもいる。」
『主任』と呼ばれるその男は、うって変わって穏やかな声で塚田に話しかける。
「さて、取引だ。内丸派についてあんたが知ってるだけの情報を渡せ。そうすれば今回の件は不問。なんなら今まで通りの待遇で雇ってくださるよう会長に口をきいてやってもいい。」
主任は口角を上げニンマリと笑うと、塚田の肩にゆっくりと手を乗せた。