
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 8:会敵
シーガルマンが特定した脱出ポイントである地下水路への入り口までは、工場の敷地内の建物の間を掻い潜る形で少し入り組んだ路地を進むこととなった。
シーガルマンが先行して安全を確認し、問題なければ塚田が後に続く形である。
道中塚田がふと空を見上げると、太陽はまだ昇っていないものの徐々に空は明るくなりつつある。
塚田の胸中には、自由への期待とこれからの道への不安が入り混じった複雑な思いが去来した。
「塚田さん。」
先行していたシーガルマンが不意に塚田を静止した。
「どうした?」
「交代の見張りのようです。」
塚田が進行方向横にあった通路の隙間を覗くと、通路の向こう側の開けたエリアに4人の人影が見える。どうやら塚田が拘束されていた尋問室の方に向かっているらしい。
「ちょっと寄り道して片付けてこようと思います。」
「目立たないかい?」
「少しリスクはありますが、連中が尋問室に戻ると逃走がバレて警戒が強まる可能性があります。増援を呼ばれると厄介なので、先に叩き潰しておこうかと。」
「分かった。僕はどうすればいい?」
「2分で戻ります。少し休んでてください。」
シーガルマンはそう言うと、4人の覆面の男が歩いているエリアに向かって走り去っていった。
塚田は通路の陰にしゃがむと、そこから奥を覗き込み、シーガルマンの様子をこっそりと伺った。
シーガルマンは通路の途中で道の片側にある2階建ての建物に目星をつけたのか、跳躍してその屋上に陣取った。
そして、その位置から4人の男が歩いている位置に拳大の物体を投射した。
その物体は4人の男のいる位置の丁度中央に落ちると、周辺に煙幕を張り巡らした。4人の男は若干パニックになっている様子である。
その様子を見たシーガルマンは現在陣取っている建物の屋上から飛び出すと、
4人の内1名の間近に着地し、どうやら杖らしい棒状の得物をその一人めがけて横なぎに振るった。
杖の先端からは青白い電光が迸り、標的となった1名はもろに直撃を受けて吹き飛び、傍にあった建物の壁に叩きつけられ気絶した。
残る3名は煙幕のダメージから多少回復したようであるが、シーガルマンは隙を与える間もなく、3人の内1人を次の標的に定めると、再び杖に電光をまとわせて突き立てた。杖を突き立てられた一人は激しく痙攣し、杖を外されると、その場に崩れ落ちた。
残る2人の男の内1名は、シーガルマンに自動小銃を向けた。しかし、シーガルマンは杖で小銃を払いのけると、かえす一撃で足を払う。そして、男が体勢を崩し倒れたところにすかさず杖を突き立てる。再び青白い電光。その1名も気を失ったようだ。
残る1名は形勢不利と見てか無線機を取り出し、同時に後退を始めた。しかし、シーガルマンは男の左手にある無線機を視認すると、迷わず杖の飾りがついた先を男に向けた。
杖飾りの先端からは細く青白い閃光が走った。次の瞬間、男が持っていた無線機は、まるで強い熱光線を受けたように溶けて煙を上げ、男はたまらず無線機を放り投げ、あまりの熱さに左手を猛烈な勢いで振るっている。
そしてシーガルマンは男に向かって走り出し、そのまま上半身に向かって飛び蹴りを食らわせた。男は仰向けに倒れこんだ。
そして、シーガルマンは杖の先端をがら空きになっている男の腹に突き立て電光を走らせた。男はしばらく痙攣した後気絶したようである。
こうして、覆面の男4人は1分ほどで無力化された。
その後、シーガルマンは手慣れた手つきで気絶した4名の身体を運ぶと、人目につかない場所に隠し、近くに置かれていたビニールシートを被せて隠蔽した。
「お待たせしました。先を急ぎましょう。」
塚田のもとに戻ってきたシーガルマンは、相変わらずの落ち着いた調子でそう言うと、再び進行方向を向いて歩きだした。 面をつけているが故に表情を読み取れないものの、どこか涼しい表情を浮かべているように塚田は感じた。