
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 16:作戦会議
そして、塚田とシーガルマンは無線を通し、最後の作戦会議を行った。
最も、数パターンの戦略の内そのどれもが、戦闘装甲『波旬』と3基のドローン存在にぶち当たる。
よって、必然的に『波旬』の排除が優先事項となった。
(むしろ、そこさえ突破すればどうとでもなるというのがシーガルマンの見解でもあった。)
『さて、波旬本体はともかく、遠隔操作のドローンが厄介ですね。小さい上にああも飛び回られては補足が難しい。』
「…別のチームが中心になって開発していた技術だ。装甲車への搭載を念頭に開発されていたけど、まさか強化装甲と組み合わせるとは。」
『あの針は何です?』
「確かタングステン製の2mm口径の貫徹針弾の筈だ。」
『タングステン?』
「対テロ掃討作戦を想定しているらしい。腐食や変形に強く銃弾よりも軽量の小型のタングステン針。それを大量に積載したドローンを安全な装甲車の中からオペレートし、市街地に隠れるテロリストを補足。そのまま威嚇もしくは射殺に移行する流れだろう。」
『…考案者はいい趣味してますね。』
「…全くだ。直径2mmの針という形状から、銃弾よりも空気抵抗の影響を受けやすい。当然だけど射程は短くなる。だが、ドローンから圧縮ガスで射出することで、そのデメリットをある程度カバーしている筈だ。」
『厄介ですね。食らってみて分かりましたが、当たりどころによっては装甲にヒビが入ります。これが装甲の薄い部分に被弾でもすれば貫通しかねません。』
「多分それが目的だよ。大した武装を持っていないテロリストに至近距離から無数の針を浴びせて、標的が原型をとどめない針山になった光景を、その仲間への見せしめに―」
ここで塚田は、田仲の末路を想像し、はらわたを攪拌されるような不快感を覚えた。
『…大丈夫ですか…?』
シーガルマンは塚田を心配し声を掛ける。
「…すまない…。」
『…いえ。こちらこそすみません。』
塚田は深く深呼吸をし、田仲のことを一度頭から散らす。
「…続けよう。」
『はい。…それで、ドローンの武装はそれだけでしょうか。』
「恐らく。ドローンのウェイトから行ってもそれがベストなはずだ。」
『…先刻、もしやと思って奴に肉薄しましたが、やっぱり射撃は止みましたね。』
「セーフティが働いたんだろう。当然オペレーターを巻き込まないように、機首が電波の発信元に向いている状況では、射撃プロトコルを強制停止する設計にしてある。…もう一度接近は可能かな?」
『難しいでしょう。先程は奴の注意が逸れていたこともあって接近できましたが、現状でいくと間違いなくマークされるはずです。接近する前に始末されるかと。』
そして塚田は一瞬考えていった。
「……それじゃあ僕が囮になるっていうのは…。」
『論外です。』
シーガルマンは即答した。
「…そうだね。」
『護衛対象を囮にするなど、本末転倒もいいところです。』
「…さて、どうしたものか。」
『…塚田さん、さっきドローンのセーフティ機能についてお詳しかったようですが。』
「ああ、ドローンの通信関係とオペレート用のソフトウェアは僕のチームのメンバーが担当していた。」
『それじゃあ、あの戦闘装甲とドローンの接続の構成はある程度予想できますか?』
「…多分いけると思う。」
『ドローンはあの戦闘装甲にダイレクトで接続されてると思います?頭部のアンテナか、背中から生えている翼のようなパーツが怪しいと睨んでましたが。』
「多分それは無いと思う。元々搭載を予定されていた装甲車に組み込む発信機は丁度1立方メートル程度。戦闘装甲に組み込むには無理があるし。先月時点でそれ以上の小型化はされていない。アンテナや背中のパーツには別の目的があるはずだ。」
『…となると…中継局が存在する?』
「その可能性は高い。背中のパーツで中継局と通信。頭部にあるっていうアンテナは、恐らくラグを避けるために映像伝送専用のドローンへの直通回線が走ってるだけの可能性が高いと見た。」
『なら中継局を破壊すればドローンは無効化できると。』
「そうなるね。」
『中継局の位置は予想できます?』
「3km以上先からは圏外の筈だ。間違いなくこの敷地のどこかにはある。」
『…。』
ここでシーガルマンは黙り込んだ。
「シーガルマン?」
『塚田さん。無理を承知でお願いが。』
「…なんだい?」
『今周りで、復帰した監察班員も含め八名程度が見張ってます。但し『波旬』は別行動中。だとすると、十名の鎮圧自体は可能ですが、そこから中継局を探すとなると、間違いなく『波旬』と会敵します。』
「…それで?」
『ならいっそ、自分が暴れ回って囮になろうかと。』
「…それで、君が敵を引き付けているうちに僕が中継局を探すと。」
『…今連中は気が緩んでます。恐らくこれ以上の増援が来ることはありません。自分が暴れれば全員こちらに集中するはずです。……頼めますか?』
「分かった。…僕にしかできない事だろう?」
『ありがとうございます。仮に『波旬』に出くわしても、15分間は稼ぎます。』
「分かった。…シーガルマン、幸運を。」
『…塚田さんも。』
数分後、敷地の中がにわかに騒がしくなった。塚田の周辺を探索していた3人の監察班員も、異常を察知してか、それまでのルートから離れた。塚田はそれを見届けると、中継局を探すべく行動を開始した。