TTosChapter 17:第三尋問室の閃光

シーガルマンロゴ

The Trial of Seagullman

Chapter 17:第三尋問室の閃光

AM5:00 青森県八戸市の港湾地帯某所
パーシアスエンタープライズ所有化学工場敷地内
第三尋問室

 20平米ほどの室内に、武装した覆面の男たち6名が密集している。その中央には白い戦闘装甲の男が厳重に拘束されている。シーガルマンである。6名の男は代わる代わるシーガルマンへの武装解除と尋問を試みるが、シーガルマンは無言のまま微動だにしない。それどころか6人がかりで戦闘装甲をはがそうとしても失敗する有様であった。そのうち、男たちは気味が悪くなってか、彼等とシーガルマンの周りには自然と距離ができ始めた。

 「そういえばナンバー4と5は?」

 男たちの内の一人がそう言った。周囲もそれに追従した。

 「ナンバー4はロッカーの中で身ぐるみはがされて気絶してた。ナンバー5は目を覚ましたが、2人共復帰は難しそうだ。」

 「一体どうした?」

 「2人共、両膝折られてた。多分職務への復帰は絶望的だろう。」

 「…可哀想にな。ナンバー4は結婚したばかり、ナンバー5は子ども生まれたばかりだってのに。」

 「…こいつ…人道ってものを知らないのか?」

 男たちの内の一人は、オブジェクトと化しつつあるシーガルマンをにらんでいった。その直後のことである―

 シーガルマンの肩部を覆う装甲の下方から、直径8cm程度の銀色の球体が一つ、床に転がり落ちた。

 男たちの集中はその球体に向いた。次の瞬間であった。

球体の外装がスライドし中から眩いほどの青い光が放射される。男たちの目は光で眩む。さらに、0.2秒後、球体の中央を起点に衝撃波が室内全体を襲った。

6名の男たちの身体はとても耐えられず吹き飛ばされ、全員部屋の壁にたたきつけられ失神した。

 すると、シーガルマンは、身体が動かないよう固定していた戦闘装甲のアクチュエーターのブロックを解除。そのままパワーアシストを全開にして拘束を無理やり破ると、椅子から立ち上がった。

 衝撃音を聞いて、部屋の外を警備していた4名が突入してくる。4人は拘束を脱したシーガルマンを視認すると即座に自動小銃を構えた。しかし、4名のうち司令塔となる1人があることに気づいた。

「…不味い、このまま撃つとあいつらにも当たる。」

 シーガルマンへの射線上には、運悪く6名中2名の男が気絶していた。

そのことに気づいた4人は、思わず小銃を下げた。その一瞬が命取りであった。

シーガルマンは奪われぬよう手のひらに格納していた杖を展開。怯んでいる4人に襲い掛かる。4人は瞬く間に、続けざまにバイタルショックを食らい失神した。

 (個室に監禁したのが仇になったな。)

 シーガルマンはそう心の中で呟くと、念の為、室内で気絶している計十名1人1人の脚を、淡々と折り始めた。

(…やはり不殺というのはどうにも効率が悪いものだ…。貴重なバイタルグレネード消費したな…。)

 シーガルマンは心中でぼやきながら、―時間がないので片足だけであるが―『処理』を完了した。少なくともこれで気絶している十名が目を覚ましたとしても、戦線に復帰される恐れは無くなった。そして、最後の一人の無線機を拝借すると、尋問室を出た。

 そのころ、主任はシーガルマンを下した後、一度戦闘装甲を解除し、敷地内に臨時に設けたドローンの待機ベースで、使用直後のドローンの手入れをしていた。

(フフフ…会長からは随分と警戒するように念を押されていたが、他愛ないもんだ。あの程度の相手に殺られるとは、前任のエージェントも、話に聞くほど大した奴じゃ無かったようだな。)

 主任はそんなことを考えながら、少しだけ上機嫌でドローンのボディをマイクロファイバー製の布で磨いていた。

(夜が明けて会長が出社されたら一番に、あの戦闘装甲の男を会長の前に引きずり出してやろう。そうすれば、より良い待遇も期待できるかもしれん。)

そして、チューブ入りのワックスを布に追加したときであった。主任のつけていた無線が作動した。

『あーあー、主任さん。聞こえるかね?』

主任は一転して仰天する。あの白い戦闘装甲の男の声だった。

『気の毒だが、あんたの部下10名は無力化させてもらった。今度は戦線復帰も不可能だろう。』

「…てめぇ…‼」

 主任は返答した。驚愕とも怒りともとれる感情に急き立てられるように無線を強く握りしめる。圧力がかかり、無線機がミシミシと音を立てた。

『このまま俺に逃げられたら、あんたの面子もボロボロだろう。そこでだ。さっきあんたと対面した広場で待ってる。以上!』

 その言葉を最後に無線は切られた。

「あの役立たず共め!」

主任は部下たちに悪態を尽きつつ、虫唾を走らせながら、無線機のチャンネルを変更する。

『あの戦闘装甲の男が逃げた!ナンバー8、9、10!塚田の捜索を中止して、すぐに管理棟前の広場に向かえ!この際殺しても構わん‼』

 主任は指令を出し終えると、天井ハッチのスイッチを叩くように乱暴に押した。

―ゴウン、ゴウン、ゴウン― 天井ハッチが轟音を立てながら解放される。そして、ドローンを発進させる準備が整うと、凄まじい勢いで待機ベースを飛び出した。