TTosChapter 18:決戦

シーガルマンロゴ

The Trial of Seagullman

Chapter 18:決戦

AM5:08 青森県八戸市の港湾地帯某所
パーシアスエンタープライズ所有化学工場敷地内
管理棟前広場

 段々と空が明るくなり始めている。シーガルマンは広場中央に杖をつき仁王立ちしている。相変わらず装甲にはヒビが入りっぱなしで、装着者本人のダメージも相応に蓄積している。実のところ、杖をつかずにはいられない状態である。

 しばらくすると、広場正面から主任が現れた。直前まで塚田を追っていた3人の監察班員も主任に付き従っている。

「行け。」

主任の指令と共に、3名の監察班員は自動小銃を構えてシーガルマンを取り囲んだ。シーガルマンは依然として仁王立ちを続けている。そして、監察班に聞こえないようヘルメットの密閉を強化し、塚田に決戦前最後の無線を飛ばした。

『これから先、応答は不要です。塚田さん、後は頼みます。』

そして、シーガルマンは無線を切ると、静かに杖を構えた。

 主任はシーガルマンと一定の距離を保ち、例のリベレーター擬きを構えながらシーガルマンを睨む。そして、ドスの効いた声で装着コードを唱えた。

「Code:Papiyas—Unseal‼」

 主任の身体は緑色の光に包まれ、戦闘装甲『波旬』の装着が完了する。

そして、『波旬』はシーガルマンを睨むと威嚇するように大きな声で言った。

「随分とコケにしてくれたなぁ。今からたっぷりとお返しをしてやる。覚悟しろ。」

 『波旬』がそう言うと同時に、3基のドローンが主任の後方から、爆音を立てて猛スピードで飛来した。

(…勝った。)

 この瞬間、シーガルマンは勝利を確信した。

「今度は手加減無しだぁッ!てめぇには死んでもらうッ‼」

『波旬』はそう言い放ち、ドローンをシーガルマンの目線の高さ、シーガルマンとそれを取り囲む監察班員3人それぞれの肩越しの位置で、でホバリングさせた。

(このフォーメーション、どういうつもりだ…?)

 シーガルマンはドローンと監察班員の位置関係に疑問を感じた。そして、相対する監察班員3名も、どこか要領を得ないようで、それぞれアイコンタクトを送り合っている。困惑するシーガルマンと監察班員3名に対し、『波旬』は嘲笑するようなトーンでシーガルマンに声を掛ける。

「お前、多分どうかしてるよな?」

「ああ。よく言われるよ。それがどうした?」

 シーガルマンはあくまで冷静に対応する。

「ここに来る前に、尋問室で伸びてる連中を見てきた。わざわざ足までへし折ってご苦労さん‼ただなぁ。普通さ。そういう時は殺すもんなんだよ‼」

 『波旬』は含み笑いをしながらシーガルマンを嘲笑う。

「仰る通りだ。確かに非効率極まりなかったよ。」

シーガルマンは『波旬』のペースに乗らないよう、敢えてマイペースに返答する。

「てゆーかお前、人間殺せないんだろ?」

『波旬』はシーガルマンに指を刺してケラケラと笑い始めた。

「だとしたら?」

「こうする!」

そう言って『波旬』はリベレーター擬きのコントローラーの引き金を引いた。

シーガルマンを取り囲む3基のドローンのうち、1基がそれに反応して搭載されたLEDが発光する。シーガルマンは攻撃を察知し、ドローンの射線上から待避した。その直後、ドローンの銃口からは数発の針弾が発射された。当然シーガルマンには命中しなかったが―

「―‼」

―変わりに、シーガルマンを取り囲んでいた監察班員のうち1名に命中。その監察班員の身体は、声を出すこともかなわず地面に崩れ落ちた。

「…ここまでやるか。」

 シーガルマンは珍しく嫌悪感を露わにした。

「もし針を避ければ、今お前を取り囲んでる2人に当てる!」

残された2人の監察班員にも動揺が広がっている。

「人殺しもできない腰抜けか、それとも人道主義者ぶった偽善者か!どっちにしろ最高の死に様が見られそうでワクワクしてるよ‼」

『波旬』は遂に爆笑し始めた。そして、次に監察班員2名に向けて命令した。

「いいかお前ら!死にたくなけりゃぁそいつに鉛のシャワーを浴びせ続けろ‼無事に殺せたら二人とも助かるぞ‼位置取りもいい具合に考えてな‼」

命令を受けた監察班員2人は、一瞬アイコンタクトをすると、ドローンの射線を計算しながらフォーメーションを組み、シーガルマンに向けた自動小銃の引き金を引いた。周辺に激しい発砲音が響く。

「お利口お利口‼それじゃこっちも始めるとするか。」

『波旬』はそう言うと、コントローラーの引き金を引いた。

3基のドローンは再び移動した。シーガルマンが避ければ監察班員に命中する位置にホバリング。フォーメーションの組みなおしが完了した。そして、3基のドローンからの攻撃も開始された。シーガルマンには、7.62ミリ弾と2ミリ貫徹針弾のシャワーが降りかかることとなった。