AA8:C6

アマギシンサク At Age 8

Chapter 6


 暫くの時が経った。

 シンサクの体感には永遠にも感じられる時間であったが、
実際には両親の帰宅から45分ほどが過ぎた頃であろうか。

―ガシャン―

というような、何かが壊れるような大きな物音が響いた。
そして、先ほどまでの怒声罵声の応酬が嘘のように、家中が一斉に静まりかえった。

シンサクは震える身体を庇いながら、静かに自室の扉を少しだけ開け、部屋の外の音を聞いた。
すると、1階の方から、何か焦りのような雰囲気を感じる2人ほどのひそひそ声がシンサクの耳に入った。

シンサクは胸の内に、何か嫌な気持ちを感じた。

 そしてシンサクは、決して物音を立てないように、床を這うようにして1階に降りる階段の方へと向かった。
階段にたどり着くと、一段一段、静かに階段を降りた。シンサクはようやく踊り場につくと、
手すりの影からリビングの方をこっそりと覗き込んだ。
シンサクの目に入ってきた光景は―



 頭を抱えて床に倒れた祖母と割れた花瓶と、辺りに散乱した家財道具、そしてそれを見て狼狽している両親の姿であった。



 シンサクの呼吸が止まった。
 いや、正確に言うとシンサクは無意識に呼吸を止めた。
 そしてそのまま、本能的に音を立てないようにして、階段を這いあがり、2階の床を這いずり回って自室に逃げ帰った。

 自室のドアノブを手で押さえて物音を防ぎ、力を込めて静かに扉を閉める。
 
 そして、シンサクは床に落ちていた毛布をひろって絨毯の上に静かに倒れこみ、
 毛布を頭まで被って寝落ちを偽装した。

 毛布の中のシンサクは、片耳を床につけて1階の音を伺おうとした。
 床の中にしこまれた断熱材越しに、両親が焦ってドタバタとしているらしい物音が聞こえてくる。
 
 そしてそのうち、トタトタと一人の大人が階段を駆け上がる物音が聞こえた。
 シンサクは首筋で嫌な感覚を感じ、同時にその身体がまた震えだす。
 シンサクは自分を抱きしめるようにして、どうにか震えを抑えようとする。
 そして、足音はシンサクの自室の前で止まった。
 さらに、一階からもう一つの足音がドタドタと上がってくることも感じた。

 シンサクは思わず息を止めた。

 ―ギィ―ィ…―

 扉がゆっくりと軋み音を響かせながら開く。
シンサクには、その音がとても禍々しく感じられた。

ここでシンサクは、寝息を立てているフリを始めた。

「…スゥー…スゥー…」

それから数秒間、寝息を立てる芝居を打っていると、

「…大丈夫。寝てる。」

と、母の落ち着いた声が聞こえた。

そして、扉の締まる音が鳴ると、2つの足音は再び1階の方に降りて行った。
毛布の中のシンサクの身体は、いよいよ震えが止まらなくなった。

シンサクは、自分の身を守るように抱きしめた。


(…おねがいです…。もっといい子になります…。……おねがい……たすけてッ…!)


シンサクは毛布の中で、目を力いっぱいに瞑って、神とも何ともつかない存在に対して必死になって祈りを続けた。


その夜、シンサクを救うものはなにもなかった。


シンサクは毛布の中で祈りを続けるうち、いつしかひとり眠りに落ちた。

アマギシンサク
At Age 8

Chapter 6


 暫くの時が経った。

 シンサクの体感には永遠にも感じられる時間であったが、実際には両親の帰宅から45分ほどが過ぎた頃であろうか。

―ガシャン―

というような、何かが壊れるような大きな物音が響いた。そして、先ほどまでの怒声罵声の応酬が嘘のように、家中が一斉に静まりかえった。

シンサクは震える身体を庇いながら、静かに自室の扉を少しだけ開け、部屋の外の音を聞いた。
すると、1階の方から、何か焦りのような雰囲気を感じる2人ほどのひそひそ声がシンサクの耳に入った。

シンサクは胸の内に、何か嫌な気持ちを感じた。

 そしてシンサクは、決して物音を立てないように、床を這うようにして1階に降りる階段の方へと向かった。

階段にたどり着くと、一段一段、静かに階段を降りた。シンサクはようやく踊り場につくと、
手すりの影からリビングの方をこっそりと覗き込んだ。

シンサクの目に入ってきた光景は―



 頭を抱えて床に倒れた祖母と割れた花瓶と、辺りに散乱した家財道具、そしてそれを見て狼狽している両親の姿であった。



シンサクの呼吸が止まった。

いや、正確に言うとシンサクは
無意識に呼吸を止めた。


 そしてそのまま、本能的に音を立てないようにして、階段を這いあがり、2階の床を這いずり回って自室に逃げ帰った。

 自室のドアノブを手で押さえて物音を防ぎ、
力を込めて静かに扉を閉める。
 
 そして、シンサクは床に落ちていた毛布をひろって絨毯の上に静かに倒れこみ、
 毛布を頭まで被って寝落ちを偽装した。

 毛布の中のシンサクは、片耳を床につけて1階の音を伺おうとした。
 床の中にしこまれた断熱材越しに、両親が焦ってドタバタとしているらしい物音が聞こえてくる。
 
 そしてそのうち、トタトタと一人の大人が
階段を駆け上がる物音が聞こえた。
 シンサクは首筋で嫌な感覚を感じ、同時にその身体がまた震えだす。
 シンサクは自分を抱きしめるようにして、どうにか震えを抑えようとする。
 そして、足音はシンサクの自室の前で止まった。さらに、一階からもう一つの足音がドタドタと上がってくることも感じた。

シンサクは思わず息を止めた。

 ―ギィ―ィ…―

 扉がゆっくりと軋み音を響かせながら開く。
シンサクには、その音がとても禍々しく感じられた。

ここでシンサクは、寝息を立てている
フリを始めた。

「…スゥー…スゥー…」

それから数秒間、寝息を立てる芝居を打っていると、

「…大丈夫。寝てる。」

と、母の落ち着いた声が聞こえた。

そして、扉の締まる音が鳴ると、2つの足音は再び1階の方に降りて行った。
毛布の中のシンサクの身体は、いよいよ震えが止まらなくなった。

シンサクは、自分の身を守るように抱きしめた。


(…おねがいです…。もっといい子になります…。……おねがい……たすけてッ…!)


シンサクは毛布の中で、目を力いっぱいに瞑って、神とも何ともつかない存在に対して必死になって祈りを続けた。


その夜、シンサクを救うものはなにもなかった。

シンサクは毛布の中で祈りを続けるうち、いつしかひとり眠りに落ちた。