TTosChapter 11:戦闘装甲<波旬>

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The Trial of Seagullman

Chapter 11:戦闘装甲<波旬>

田仲がエリアから消えると、その場には主任とシーガルマンだけが残った。

 しばしの沈黙。そして、先に口を開いたのは主任であった。

「お前か…。前任のエージェントを殺した戦闘装甲の男ってのは。」

 主任は改めて携行武器をシーガルマンに構え直すと、興味深そうにそう言った。

「…だとしたら?」

 シーガルマンは敢えて軽いトーンで返事を返す。

「聞いた話じゃぁ茶色の戦闘装甲だったらしいが。…その真っ白な戦闘装甲。思いのほか滑稽だなぁ。」

 主任はシーガルマンを挑発する。

「それについては俺も重々承知してる。最も、その滑稽な男にここまでコケにされるとは、東間会長のエージェントの質も下がったものだな。」

 シーガルマンは主任を挑発し返した。

「しかし、与太と思っていたが実在していたとは驚きだ。会長の言う通りコレを持ってきていて正解だった。」

 主任はシーガルマンの挑発をかわすように話題をすり替えた。

「そのFP―45もどきのことか?」

 FP―45とは、『リベレーター』の愛称で知られている、第二次世界大戦時にアメリカで設計された4インチ(=100mm)の小型拳銃の事である。

 しかし、主任はこのシーガルマンの挑発に返答することはしなかった。その代わり、次の言葉を発した。

「Code:Papiyas—Unseal」

 次の瞬間、主任の身体は緑色の光に包まれた。

 シーガルマンは状況を察した。

「戦闘装甲。初めて見るタイプだ。しかも自動展開装着型とはリッチだな。」

 シーガルマンは主任の姿を一瞥するとそう言った。

「試作型を持ち出しただけだがねぇ。」

 主任はそう言いながら手足を軽く動かし、『馴染み具合』を確認する。

 その姿は、黒いアンダースーツに緑色の装甲。背中からはワタリガラスの翼を想起させるブレード状のパーツが2基飛び出しており、頭部もまた緑で覆われところどころ差し色のようにガンメタルのパーツが取り付けられている。そして、耳の位置からは偶蹄目動物の角を思わせる、金属製のアンテナが2本、特徴的にのびていた。

「随分と悪魔染みた見てくれだなぁ。制式名は『ヴァフォメット』とか言い出すんじゃあるまいな。」

 シーガルマンは最大限の警戒を込めてリラックスしながら軽口を飛ばした。対して―

「惜しいなぁ。良い線は行ってるよ。」

 主任がそう返した直後、2人のいるエリアにどこからともなく3基の小型の飛行物体が飛来した。それらは主任の戦闘装甲の周りを取り囲む。

 その一つ一つは翼長30cm程度、2基のローターが搭載され、主任の戦闘装甲同様緑色のボディで覆われた超小型の全翼機のような形状のドローンである。

「折角だ。冥土の土産に教えてやる。」

 主任がそう言うと、ドローン3基は主任に付き従うように整列。その場でホバリングを開始した。

 そして主任は手で持ち続けていた、『リベレーター』のような携行武器をシーガルマンに向け引き金を引く。

 そして同時に言い放った。

「戦闘装甲<波旬(ハジュン)>!」

 すると、主任の周辺で待機していたドローン3基は一斉にシーガルマンに襲い掛かった。

 3基のドローンは猛烈なスピードでシーガルマンの周囲を取り囲むと、機首に搭載された銃口から、金属製の針のようなものを連射。その様子はまるで豪雨の如くであった。

「ッ…。どっちにしろ悪魔だろうが…!」

 シーガルマンはマントで針による攻撃を防ぐ。しかし、そこで防ぎきれなかった針はシーガルマンの装甲に到達。連続して着弾した針の運動エネルギーがシーガルマンの装甲にダメージを与える。

 その後、計8秒間の斉射はシーガルマンの装甲数か所にヒビを入れるに至った。 同時に雨のように降り注いだ着弾の衝撃の数割は装着者である本人にまで到達。シーガルマンはついに片膝をついた。