
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 12:絶望の告発
田仲和夫は、シーガルマンに恫喝されるままに、一心不乱に逃走を続けた。そして、シーガルマンが戦闘装甲波旬を装着した主任と対峙している同時刻、田仲は遂に転倒した。
両手を拘束する結束バンドが災いし、田仲はもろに顔面からコンクリートの地面に激突した。田仲はその衝撃により軽い脳震盪を起こし動けなくなった。思考が止まった田仲の心中には、シンプルな絶望感だけが残された。しかし、その状態の田仲に唯一声を掛ける人間があった。
「…なか…田仲!」
田仲はその呼びかけにより意識を辛うじて回復させた。田仲はその声の主を目で見て確認する。その正体は、長年同僚であり上司であった塚田俊介であった。
「…塚田さん?」
「無事だったか…。」
意識のある田仲の様子を見て、塚田は一先ず胸をなでおろした。
「…田仲…ここまで巻き込んでしまって済まない。」
「…塚田さん。どうして。」
田仲は不可解そうな様子で塚田を見る。
「…どうしても、君を置き去りにして逃げる気にはなれなかった。」
「そう言うことじゃなくて。」
田仲の目はただ虚ろであった。この時、塚田は田仲をこの状況から救い出す義務を感じていた。
「逃げ道は用意されてる。…一緒に逃げよう。」
塚田は田仲に手を差し伸べた。しかし―
「いえ、もういいです。」
田仲はすまし顔でそう言い切ると、よろよろと立ち上がった。
そして、あっけにとられる塚田をしり目に、主任のいる広場に向かって逆行し始めた。
同時刻、広場では主任が戦闘装甲『波旬』と遠隔操作兵器を以ってシーガルマンに針の雨を浴びせていた。
片膝をつくに至ったシーガルマンを見た主任は、一度ドローンを下がらせた。そして勝ち誇るようにゆっくりとシーガルマンににじり寄る。
「どうやら会長はお前に興味があるみたいだ。会敵した場合は生け捕りにしろと言われてる。」
「…そうだろうな。」
シーガルマンは主任が接近しきる前に、どうにか立ち上り、主任に対して杖を構えなおした。その時である。
「主任‼」
武装した主任に駆け寄る人間がいた。田仲和夫である。両手を結束バンドで拘束されたまま軽快な足取りを見せるその姿は、人の目には滑稽に映るものであった。
突然の乱入者に、主任とシーガルマンの戦闘は中断を余儀なくされた。
あっけにとられる二人の事は意にも介さず、田仲は主任の傍に到着すると、この一日で一番軽快な声で主任に言った。
「主任!塚田俊介と接触しました!あいつは今ここから100mの地点、培養実験棟の建物の陰に隠れてます!」
シーガルマンは、思わず舌打ちをした。そしてすぐにヘルメットのスピーカーをカットし、塚田との暗号回線を開いた。
『塚田さん。すぐに全力で逃げてください‼田仲さんは裏切りました!』
シーガルマンはヘルメットから声が漏れないように抑えつつも、必死に塚田に呼びかけた。しかし―
『…嘘だろ…。』
塚田の力ない声がシーガルマンのヘルメット内部に静かにこだました。