
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 6:水槽の尋問室
AM4:00 青森県八戸市の港湾地帯某所
パーシアスエンタープライズ所有化学工場敷地内
屋内循環水槽(今現在は臨時の尋問室として運用)
15平米程度の空間を小さな蛍光灯が薄っすらと照らし、その光は地面の一角を占める水面が映り込んでは揺らめいく。
―バシャンッ‼―
強い水音が空間に反響し、水しぶきがあたり一帯に散らばり空間内に整列していた男たちにも容赦なく降りかかる。
しかし、しぶきがかかった数名の覆面の男たちは、微動だにすることなく自動小銃を構えて直立不動を保っている。
一方、覆面の男たちの視線の先には軽装の男がしゃがんでいる。その右手は中年男性の後頭部を鷲掴みにし、水面に押し付けるようにして沈めている。
中年男性は苦しそうにもがくが、軽装の男はケラケラと笑いながら中年男性を水面に押さえつけ続ける。
やがて、中年男性の抵抗が弱弱しくなってくると、軽装の男は中年男性の後頭部の髪の毛を掴みなおすようにして、乱暴に引き上げる。
水面から解放された中年男性は目を腫らし、鼻から水を垂れ流しながら、呼吸しようとして失敗し、むせ返っている。軽装の男は男のむせ返りが収まるや否やその顔を自分の方に引き寄せ、ニヤニヤとした表情で中年男性に言った。
「さーて、田仲さん。もう一回水の飲み放題にチャレンジするか?」
田仲と呼ばれた中年男性は、今にも泣き出しそうな顔で必死に声を絞り出そうとする。
「…わかった…。」
田仲は少しの間の後、ようやくか細い声を出すことに成功した。
しかし、軽装の男は田仲の髪の毛をより強く引っ張り、冷たい声で言った。
「聞こえねーな。」
田仲はより顔を強張らせ必死になって無理やり声を張り上げた。
「…分かった。全て白状する…‼……助けて…。」
田仲は泣きながらそう答えた。
「最初っからそう言えばよかったんだよ。」
軽装の男はニヤリと笑うと、田仲の髪の毛を手放した。 田仲は水たまりのできている床に倒れこみ、自分を守るように身体を丸め震えた。