
–正伝-
The Trial of Seagullman
Chapter 2:独りきりの救出者
数分後、塚田は内丸派の男によって拘束を解かれた。
塚田が軽く手足を伸ばすと、その身体中のあちこちから、『ボキボキ』と凝りがほぐされたような音が立て続けに鳴る。
そして塚田は椅子から立ち上がった。瞬間、腰に電撃のような違和感が走ったのか、思わず腰に手を当てた。
「あいたた…。」
「十数時間の拘束です。無理もありません。ぎっくり腰とエコノミー症候群にはくれぐれもお気を付けを。」
内丸派の男は、気を失っているナンバー5を結束バンドで拘束しながら答えた。
相変わらず暢気とすら思えるほどに落ち着き払っている。
「そうだな…。ありがとう。」
塚田はそういうと、軽くストレッチを始めた。
「それで…、味方は何人来てる?」
塚田は身体を優しく伸ばしながら内丸派の男に尋ねた。塚田の見積もりでは、5人位いれば無事にこの場所から脱出できるのではないか、と素人ながらに考え、期待しての質問だった。
「残念ですが、自分一人です。ちょっと人手が足りないもので、塚田さんには頑張ってもらわなければいけません。」
しかし、内丸派の男は変わらず落ち着いたトーンであっさり言い放った。
塚田はかすかな期待が折られ、感じなくなっていた疲れが再びぶり返した。
塚田はストレッチをやめると、気を落とした様子で力なく、先刻解放されたばかりの椅子に座り直した。
「…済まない、今日一日飲まず食わずなんだ。水をくれないか?」
そう内丸派の男に求めると、黙って下を向いた。
「かしこまりました。」
内丸派の男は静かにそう答えると、部屋の中にある戸棚から比較的綺麗なビーカーを取り出し、
流しで洗い始めた。
塚田は流水の音を聞き流しながら、肚の底にたまった重たい気分を載せるようにしてため息をついた。
間もなく、内丸派の男がビーカーに600mLほど水を汲んで塚田に優しく差し出した。
「どうぞ。少し丁寧めに掃除したので多分問題ありません。」
塚田は無言でビーカーを受け取ると、勢いよく水を飲み始めた。
塚田は水を飲み干すと、黙ってビーカーを内丸派の男に差し出した。
内丸派の男は無言でビーカーを受け取り、流しで洗浄する。
「…さっき君が言った通り、諦めた方がいいのかもな。」
塚田は椅子に座ったまま、内丸派の男の方を向かずにそう言った。
「…そう思います?」
内丸派の男も、ビーカーを洗いながら淡々と答える。
「…なんだかどうでも良く思えて来た。無理に危険を冒してここから逃げたところで…。」
塚田は疲れ切った声でそう答えた。
「じゃあやめますか。だったら自分帰りますけど。」
ビーカーを洗い終えた内丸派の男は、塚田の方を向くと、あっさりとそう言い放った。
塚田は内丸派の男の反応にあっけにとられてしまった。
「…どうします?」
内丸派の男は、塚田の目をじっと見てそう問いかける。
「…すまない、ちょっと考えさせてほしい。」
塚田は内丸派の男から目を逸らして答えた。
「…承知しました。」
内丸派の男は、そういうと黙ってナンバー5の拘束を追加し始めた。
「どこで間違ったんだろうな…。」 塚田はうつろな表情で椅子にもたれかかると、静かにそう呟いた。