TTosChapter 20:決着

シーガルマンロゴ

The Trial of Seagullman

Chapter 20:決着

AM5:11 青森県八戸市の港湾地帯某所
パーシアスエンタープライズ所有化学工場敷地内
管理棟前広場

 シーガルマンへの一斉射撃は尚も続いていた。装甲へのダメージが徐々に増していき、防弾用のマントにも無数の針が突き刺さっている。

「チィッ。しぶといな‼いい加減たおれろ‼」

高みの見物を決め込んでいた『波旬』が野次を飛ばした、次の瞬間であった。

シーガルマンを取り囲んでいた3基のドローンのローターが一斉に停止。

『緊急停止 緊急停止』

ドローン全機はけたたましい警告音を断末魔の如く上げながら墜落した。

「…ハァッ?ふざけるな‼」

『波旬』は目に見えて動揺し始めた。その光景を受けて、監察班員2名も様子を伺うように射撃を停止した。

(ナイスです、塚田さん!)

 シーガルマンは心の中で塚田に賛辞を述べると、防御姿勢を解いた。杖にエネルギーを溜めると、隙を晒している2名の監察班員にバイタルショックを連続で食らわせた。監察班員がその場で失神したのは言うまでもない。

 ここにきて、『波旬』はようやく状況を理解した。

「…ふざけるなぁぁぁぁッッ‼」

『波旬』はそのまま雄たけびを上げると、全身で怒りを表すような仕草をしながら、両手のガントレットからナイフを展開。シーガルマンに踊りかかった。

 余談ではあるが『波旬』…もとい主任は、いくつかの格闘技の経験があり、20代の頃当時の勤務先で開催された格闘技の大会で入賞した経験もある。今回こそドローンに頼ってこそいたものの、先の戦闘で肉薄された際に、問題なく反撃してシーガルマンに傷を負わせた経験もあり、主任は、ここからインファイトに持ち込んでも問題なくシーガルマンを倒せると高をくくっていた。そして、感情の赴くままにナイフを構え、『波旬』はシーガルマンに突進した。

しかし、シーガルマンは―

「バイタリウムブラスター。デストラクションモード。」

 自身の戦闘装甲の音声認識システムにそのように指令をだすと、杖の飾り部分にエネルギーを集中させ、迫りくる『波旬』に向けた。

 

 バイタリウムブラスター。

 戦闘装甲のエネルギーを転化した一種の粒子砲である。放射された閃光は突進する『波旬』の足元に命中し、片足を消し飛ばした。

「―ッァアアアッ‼」

 『波旬』は悲鳴と同時にバランスを崩し、そのままシーガルマンの目の前に突っ込む形で転倒した。シーガルマンは目の前でうつぶせ状態になっている『波旬』を黙って見下ろす。『波旬』は顔を上げると、ヘルメット越しに憎々し気な目でシーガルマンを睨んだ。

「…ふざけるなぁ…男らしく…私と戦え…。」

『波旬』が「男らしく」といった時点でシーガルマンは思わず失笑した。

「断る。俺は格闘家でも武人でもない。」

シーガルマンは冷たくそう吐き捨てると、杖の先端エネルギーを集中した。

「バイタリウムスマッシャー。スタンモード。」

バイタリウムスマッシャー。戦闘装甲の動力炉のエネルギーを杖の先端の一点に集中し、そのまま標的にたたきつけ粉砕するシーガルマンの必殺兵装である。

シーガルマンはそのまま、杖を『波旬』のバッテリーセルと目される部分に突き立てた。すると、戦闘装甲波旬は、白煙を上げて機能を停止した。

「…命までは頂戴しない。精々そのまま長生きするんだな。」

シーガルマンは冷たい声で主任にそう言った。

 しかし、装着者であった主任はシーガルマン返答することなく、動かなくなった戦闘装甲の中で一人、ブツブツと熱にでもうなされたように恨み言を吐き続けた。

 間もなく、広場に塚田が現れた。

「シーガルマン‼」

シーガルマンは塚田の呼びかけに対し、黙って頷いて返した。

すると、主任はシーガルマンを睨んでいった。

「シーガルマン…か。名前までふざけてるなぁ。」

「『波旬』とどっこいどっこいだと思うが。」

 シーガルマンは主任に皮肉を返す。すると、主任は機能停止した戦闘装甲のままシーガルマンの左脚にしがみついた。

「…何のつもりだ?」

「…このまま逃がすと思うか…?私はまだ負けてない。せめててめぇの片足ぐらいはもぎ取ってやる。」

主任は何かに取り憑かれたような声でシーガルマンに言った。

「その機能停止した戦闘装甲でか?」

「機能停止したなら再起動すればいい…‼」

主任の声には狂気が宿っていた。

「最期にあんたに言っておく。俺は人道主義者でもなければ人殺しの経験のない善人でもない。今は故あって殺しはしないが…、死に急ぐ莫迦を止めるつもりもない。」

シーガルマンは呆れたように主任にそう言った。

「…黙れッ。Code:Papiyas—Unseal‼」

 主任はシーガルマンの忠告を無視し、装着コードを唱えた。

  直後、機能停止していた『波旬』はしがみついていたシーガルマンの脚を即座に手放し、けたたましいアクチュエータ音を鳴らしながら壊れた機械人形のように辺りを這いずり回るように動き回った。
 明らかに人体構造の限界を超えた動きを見せる戦闘装甲の中からは、骨の折れるような音が何度も響いた。
やがて、戦闘装甲からはその全体から白煙が上がり、
同時にたんぱく質の焼け焦げるような匂いがあたりに漂い始め、遂に動きは止まった。

「…南無三。」

 シーガルマンは静かに手を合わせると、そう唱えた。  以後、主任が言葉を発することは二度となかった。