TTosChapter 21:夜明け

シーガルマンロゴ

The Trial of Seagullman

Chapter 21:夜明け

AM6:25 青森県八戸市館鼻
館鼻岸壁付近某所

 その後、塚田とシーガルマンは無事に脱出に成功した。2人共負傷と疲労困憊があったことから、当初の想定よりもかなり長く地下水路を彷徨ったが、途中小休止をはさみながらどうにか1時間ほどで地上に脱出することができた。

 塚田が地下水路の出口の梯子を上りきると、そこは閉め切られたガレージのようであった。最も中には何も置かれていない。そして、塚田は後から続いたシーガルマンに促されるままガレージの扉を開いた。

 塚田の全身には、扉の向こうから朝日が降り注いだ。
長時間地下水路を彷徨っていたからか、塚田にとってこの朝日はいつもよりも眩しかった。
目が光になれると、その目には朝日に照らされた漁港の光景が写った。
この時の塚田には、その光景が何よりも美しく感じられた。

 塚田が後ろを振り向くと、既にシーガルマンの姿はそこに無く、代わりに監察班の制服を着た長身の青年が立っていた。既に覆面も外している。

 「長い間戦闘装甲で大丈夫だったのかい?」

塚田は青年を労わって聞いた。

 「万が一追手があれば応戦する必要がありましたから。ここまでくれば大丈夫でしょう。」

青年はそう言いながらガレージをでると、ポケットから鍵を取り出し、すぐそばに止めていた古びたワンボックスカーの運転席のドアを開けた。

 「君の車かい?」

塚田は青年に聞いた。

「塚田さんの車ですよ。」

 青年はそう答えながら運転席越しに手を伸ばし、助手席から封筒を取りだした。

「僕の?」

 塚田が拍子抜けしたような声を上げた。青年は締まらない表情の塚田に封筒を差し出す。

「中には当座のお金7万と、廃車業者とか国外渡航補助業者とか、関東方面でこちらの息のかかった業者のリストが入ってます。お役に立つかと。あとこれ鍵。」

 青年は塚田に封筒を手渡し、鍵を握らせた。

「僕はこれからどうすれば…。」

塚田は少し心配そうに青年に尋ねる。

「全て塚田さんの自由です。ですが、この町に居続けるのは少々リスキーでしょう。」

 青年は少し寂しそうに微笑んだ。

「…そうだね。さて、どうしようか。」

塚田も微笑みながら答えた。

「とりあえず、関東に出ればそこからはどうとでもなります。公共交通機関は敵にマークされる可能性がありますから、車で下道が安全でしょう。少し古いですが走りは問題ありません。カーナビは備え付けで、車内には給油済みの携行缶ものせてます。東京までは持つはずです。」

青年はそう言いながら車の後部座席の点検を行う。

「特に問題はありませんね。どうぞ。」

塚田は青年に促され、運転席に座る。

青年はそれを見届けると運転席のドアを閉めた。青年は座席のハンドルを回して窓を開ける。

「ひとつ聞いてもいいかな?」

「なんでしょう?」

車の外で休めの姿勢をとっていた青年は首をかしげる。

「結局、僕は内丸派からは見捨てられたわけだろう?それじゃ君は独断で僕を助けに来たのかい?」

「…そうなりますね。」

「あんな目に合ってまで、どうして僕を。」

「そうですね…。塚田さんが居酒屋で一緒に飲まれた男性覚えてます?」

「…うん。思い出した。そういえば、どこかで見たことのある顔だったな。」

「あの方、自分が内丸派でお世話になってる首脳部のお一人でして、塚田さんのことを滅茶苦茶心配してたんですよ。北さんと言うのですが。」

「…もしかして市長の?」

「ええ。塚田さんに関する会議は自分も顔出してたんですけど、市長閣下は最後まで塚田さんの救出を主張されてまして。」

「何でそこまで。」

「『あんないい人を見殺しにはできない』と。」

「僕、そんないい人間かい?」

「市長閣下、人を見る目だけは本物だと思ってます。最も、その時の会議では多数決で否決となりましたが。あんなに食い下がる閣下を見るのは初めてで。」

「それで気になって直接僕の様子を見に潜入したってのかい?」

「そですね。その価値は十二分にあったと思ってます。」

青年はあっけらかんと答えた。

「君も相当ぶっとんでるよね。…本当は何者なんだい?」

「…『正義の味方』ってことにしといてください。」

青年はいたずらっぽくそう答えた。

「…そうか。分かった。」

塚田は納得した表情で頷いた。

「塚田さん、お会いできて良かったです。」

「こちらこそ。お互い、人生の『落とし前』必ずつけようね。」

「…ええ!」

「シーガルマン。最後に名前を聞いてもいいかい。」

「…そうですね。」

青年は右手につけていたグローブを外し、運転席の塚田に差し出した。

「天城慎作です。」

「慎作くん。またどこかで会おう。それまで元気で。」

「塚田さんも。」

「それじゃあ。」

塚田はそう言うと、ワンボックスのエンジンをかけた。早朝の岸壁に

ディーゼルエンジンの音が響く。塚田がドライブレンジにシフトを入れると、車はゆっくりと走り出した。

 少しだけ進んだ後、塚田が後ろを振り向くと、既に天城慎作の姿は無かった。

やがて、車が岸壁から出ると、ウミネコの群れが車の周りを見送るように飛び始めた。塚田はウミネコの群れに別れを告げると、アクセルを踏んで車を加速させた。朝日は尚も塚田を照らし続けていた。

(完)